第85回 新井宏が語る”理系視点の考古学シリーズ”第1回『 三角縁神獣鏡国産説の証明(鉛同位体)』-新井宏
旧来の考古学系の研究は、三角縁神獣鏡の目に見える外観(形状、文様、銘文)の精緻な研究が主体であり、ともすれば主観的な判定と成りがちであった。その一方で鉛同位体比分析等による理化学的な研究は、考古学系の下請け的な研究の要素が強く、両研究の結果に差異が生じても、考古学系に「忖度して」不都合な内容を目立たぬ形に改変してしまう事例がしばしばあった。
また三角縁神獣鏡には中国鏡と異なりほとんど全てに「同型鏡」が存在するが、旧来の研究ではそれらを「同笵鏡」と称し「元鏡」と同等に扱う流れがあった。しかし、理化学的な研究によると「同型鏡」の製作時期や製作場所は「元鏡」と異なっていた状況を示唆していて「複製鏡」と理解と直す必要があった。
また、旧来の研究では、三角縁神獣鏡の原料問題に迫る有力な手法を持たなかったが、「鉛」は銅や錫と異なり精錬がはるかに容易で有り、銅・錫の供給を中国に頼っていても「鉛」だけは「地産地消」が行われた可能性があることを、楽浪土城、平原弥生古墳、荒神谷中型剣、桜ヶ丘銅鐸などに見出し、最終的には岐阜県神岡鉱山を三角縁神獣鏡鉛原料の産地と推定した。
なお、本報告では旧来の考古学の外観的な研究成果をいったん全く「無かったもの」として、理化学的な研究のみによって、研究史を再編することを試みている。