第79回 2019年2月15日 海と船のメカニズム(流体力学と船舶工学)—古代を中心に(高川博)

 

日本列島の周辺海域は海流に洗われ、変化に富んだ地形により潮汐流も複雑な流れを見せる。その上に風雨などの気象の変化が激しいため、世界でも名だたる荒れ海となっている。

近年の人工衛星や地上レーダーによる海洋観測によって、これまで分からなかった巨大渦の存在が知られるようになり、中でも対馬の東西水道に出現する巨大渦は朝鮮半島と列島を結ぶ海域を渡海する古代の船にとって大きな障害となり、航海ルートの選定に多大な影響を与えた。

古代の船は筏→丸木舟→準構造船→構造船(帆掛け船)と発達を遂げたが、特に6世紀以降に出現したと見られる構造船(帆掛け船)は、東シナ海や日本海といった外洋を渡海する上で大きな画期となった。

また4世紀末から朝鮮半島の抗争に介入した倭国には馬がもたらされ馬文化が見られるようになる。5世紀代の船はスペースの狭い準構造船であり、馬の運搬に適した構造船は、この時期の倭国や朝鮮南部においては出現していない。どのような船で馬を運んだのか、大きな謎となっている。そこで最も可能性のある方法として、準構造船を双胴船(ダブルカヌー)に仕立て中央部に馬房を設けて複数頭を収容したのではないか、との推察が成立する。